何が面白いのか説明しようとすると、言葉が追いつかない。それなのに、笑ってしまう。

ピン芸人・永野には、そんなネタがいくつもある。「孤高のカルト芸人」と呼ばれ、ライブの世界で一目置かれてきた。しかし、本人が望んでいたのは、テレビで売れることだった。

分かる人だけが分かればいい、という場所には収まらない。説明しにくい笑いと、はっきりしたメジャー志向。その組み合わせに、永野の独特な立ち位置がある。

青緑色のシャツと赤いパンツ姿で舞台に立ち、マイクを持ちながら片手を頭の後ろに添える永野。

舞台でマイクを手にする永野。

「ラッセン」を説明しても、笑いは説明しきれない

代表的な歌ネタ「ラッセン」は、ゴッホよりラッセンが好きだと大声で歌い上げるものだ。何をするネタかは、ひと言で伝えられる。難しいのは、そのどこが面白いのかを伝えること。

ほかのネタも、タイトルからして不思議だ。「前すみませんばかりやってたら最後イワシになってしまった人」。そして「富士山の頂上から二千匹の猫を放つ人」。言葉は分かるのに、どんな笑いになるのかは簡単に想像できない。

ネタのあらすじは伝えられる。でも、それだけでは、見た人がなぜ笑ったのかまでは伝わらない。

後から理屈を付けても、その理屈だけではネタの面白さに届かない。永野の芸風を考える時、このつかまえにくさは外せない。

ピンク色のシャツ姿で、顔の両側に手を上げて大きく口を開ける永野。

顔の両側に手を上げる永野。

2014年、「ラッセン」が広く届く入口になった

永野の名が広く知られる転機になったのが、2014年の『アメトーーク!』特番だ。

出演したのは「ザキヤマ&フジモンがパクりたい-1グランプリ」。山崎弘也と藤本敏史が、後輩芸人のネタを見て自由にまねし、アレンジする企画だった。そこで永野が披露したのが、当時売り出し中の「ラッセン」の歌ネタである。

それ以前から、斎藤工や小嶋陽菜らが永野を高く評価していた。そうした芸能人のファンを通じて、少しずつ名前が広がる。その流れに、『アメトーーク!』への出演が重なった。

ライブの世界で知られていた芸人に、テレビを通じて出会う人が増えた。「ラッセン」は、永野の笑いが広く届く入口になったのだ。

売れない場所に、とどまりたかったわけではない

「カルト芸人」という言葉に、決まった定義はない。広く理解されにくいネタをする人や、テレビでは見せにくい表現をする人などが、この呼び名で語られてきた。

永野の異端さは、ネタの奇妙さだけではない。カルトと呼ばれながらも、メジャーな舞台から目をそむけていなかったことにある。

当時の永野は、お笑いライブの狭い世界で優劣を競う風潮を嫌い、早くテレビの世界で売れたいと繰り返し口にしていた。

売れていないこと自体に価値を置いていたのではない。カルトと呼ばれる立ち位置と、本人が望んでいた場所には、ずれがあったのだ。

ネタは、簡単には説明できない。でも、どこへ行きたいかは明快だ。その組み合わせが、カルト芸人という呼び名の中でも、永野を異端にしていた。

ネオンの看板を背に、青緑色のシャツ姿で顔を斜め上に向ける永野。

ネオンの看板を背にした永野。

「ラッセン」で永野を知った人も、ほかのネタのタイトルを見ると、また少し分からなくなる。その分からなさのまま、大きな舞台へ向かっていく。永野の面白さは、ネタだけでなく、その歩みからも見えてくる。